事務局は「説明パンフレット」を用いて説明しました。説明者は次のとおりです。
田中大阪府市大都市局制度企画担当部長(第1、5、9、13、17、21、25、30、34回)
吉村大阪府市大都市局広域事業再編担当部長(第2、6、10、14、18、22、26、29、33、37回)
手向大阪府市大都市局制度企画担当部長(第3、7、11、15、19、23、27、32、36、39回)
太田大阪府市大都市局制度調整担当部長(第4、8、12、16、20、24、28、31、35、38回)
事務局からの説明内容について、議事録に基づいて次の点を検証しました。なお、これらの検証結果の多くは「大阪市における特別区設置協定書に関する住民説明会での説明内容のテキスト分析」に基づきます。
1.「賛成多数=大阪市廃止」を説明したか?
39ページある「説明パンフレット」の中で、賛成多数なら大阪市が廃止されることが言葉で記述されているのは1ヶ所だけで、6ページの一番下の「今後のスケジュール」の欄に、標準的なフォントサイズで次のように書かれています。
今回の住民投票は投票者数にかかわらず成立し、賛成の票数が有効投票(賛成票と反対票を合計した総数)の半数を超える場合は、特別区設置協定書に基づき大阪市が廃止され、特別区が設置されます。反対の票数が有効投票の半数以上の場合は、特別区は設置されません。
この部分の住民説明会での説明の仕方ですが、39回ともほぼ同じ内容で、例えば第1回説明会での田中部長の説明は次のとおりでした。
この住民投票で特別区設置についての賛成の票数が有効投票の半数を超える場合は平成29年4月に特別区が設置されることになります。また、反対の票数が有効投票の半数以上の場合は特別区は設置されません。
このように事務局は「大阪市が廃止され」の部分を39回とも飛ばしており、「賛成多数=大阪市廃止」を市民に一度も口頭では説明しませんでした。
2.(39回の説明会の間に)説明内容に変化があったか?
先ず、説明内容の文字数を調べてみました。次のグラフはその結果を表しています。
何となく19回目から少し文字数が減った、つまり説明が短くなったように感じますね。そこで、縦軸を8000~11000にするとグラフは次のようになりました。
やはり19回目から文字数が減ったように見えますね。説明者が4名いましたので、確認のため人別にも調べてみました。
4名とも、19回目以降文字数が減っていますね。「特定の人だけではなく4名とも減った」ということは、個人の判断ではなく話し合って決めた方針に基づいて減らしたはずです。そこで、どこがどのように減ったのか調べました。その結果、4名とも次の7ヶ所に変化があったことが分かりました。
18回目まで | 19回目以降 | |
(1) | これらの広域機能を府に一元化することで、大阪都市圏の広がりを踏まえ大阪トータルの観点から都市の発展などを推し進めていく。 | これらの広域機能を大阪府に一元化することで大阪トータルの観点から大阪の成長、都市の発展などを推し進めていく。 |
(2) | 特別区設置協定書のご説明に先立ちまして、基本的な用語の意味として特別区、特別区設置協定書についてご説明し、引き続いて今後のスケジュールをご説明致します。 | (なし) |
(3) | 平成29年4月1日に現在の大阪市域に5つの特別区が設置されることになります。 | 平成29年4月1日に5つの特別区が設置されることになります。 |
(4) | 5つの特別区の名称・区域、本庁舎の位置、議員定数について、真ん中の地図と表にお示しておりますのでご覧ください。 | (なし) |
(5) | 中央区については特別区設置協議会の議論による総合的な判断によりまして現在の西成区役所となりました。 | 中央区は現在の西成区役所となりました。 |
(6) | こちらから13ページにかけては各特別区の概要としてそれぞれの特別区の区域、本庁舎、区議会議員の定数などを記載しております。併せて本庁舎とともに支所等についてもその位置を示しております。引き続き現在の区役所等が支所等として残ります。また最下段に主要な統計数値も記載することで、それぞれの区がどのようなものになるかをお示ししているところでございます。 | (なし) |
(7) | 例えばですが、高等学校などの財産は大阪府に引き継がれますが、将来それらの大阪府の仕事が終了した場合にその財産をどうするか、その取り扱いについては大阪府・特別区協議会(仮称)で協議致します。その際にはもともと市民が築き上げてきた財産であることを十分踏まえて考えていくことになります。 | (なし) |
(1) では「大阪都市圏の広がりを踏まえ」という表現が削除され、(2)、(4)、(6) では説明順序・説明箇所に関する部分が削除されていますが、これらはいずれも説明時間の短縮が目的であると思われます。(3) の変化は問題で、ここでは「現在の大阪市域に」という表現が削除されています。5つの特別区が設置されることのみ説明し、大阪市には触れないようにしたと考えられます。(5) は新中央区の区役所の位置の決定経緯を曖昧にするため、(7) は大阪府に引き継がれる大阪市の財産の将来における取り扱いを曖昧にするために削除したとも取れます。
3.特別区の財政についてどのように説明したか?
5つの特別区の財政については、「説明パンフレット」26ページの「各特別区の長期財政推計[粗い試算]」を用いて、財源活用可能額が17年間で累計約2,762億円となり住民サービス水準を良くすることができると説明しました。39回ともほぼ同じ説明で、例えば第1回説明会での田中部長の説明は次のとおりでした。
この推計は税収の伸び率など一定の前提条件を設けた上で行った粗い試算であることから、それぞれの数値については相当の幅をもって見ていただく必要がありますが、推計結果からは特別区の財政運営は十分可能ということになっています。…財源活用可能額とちょっと枠囲いの文字がありますが、これは使うことができるお金の額という意味です。右に徐々に拡大して棒グラフですけど45年度には約292億円、折れ線グラフのほうですが、平成29年度から45年度までは累計額で約2,762億円となる見込みです。この財源活用可能額を利用して各特別区は今までの仕事を拡充したりサービス水準を良くしたり、住民のみなさんが必要としている新しいサービスを行うことができます。
この17年間で累計約2,762億円という額は、第17回大阪府・大阪市特別区設置協議会での資料で示された額ですが、「協定書vs説明パンフレット」のページにも書いたとおり、地下鉄民営化等の特別区設置とは関係がない効果も含んでいる、特別区設置反対派の委員を排除し出席者全員を賛成派にしていた第17回の協議会で示された、「特別区設置協定書」には記載されていない額であるため、信頼性に欠けます。
4.「特別会計」について言及したか?
39回ともほぼ同じで、特別区と大阪府に配分するお金は大阪府の特別会計で管理すると説明しました。
続きまして19ページをご覧ください。…その下の枠囲みをご覧ください。これから特別区と大阪府に配分するお金は大阪府の特別会計で管理し、その配分割合は、特別区設置後3年間は毎年、その後は概ね3年毎に大阪府・特別区協議会(仮称)でございますけど検証しまして、その際に大阪府が受け取るお金については大阪市から移管され、仕事に使われているのかを検証していくことにしております。
しかし、「大阪府の特別会計で管理する」ということは協定書には書かれていません。このことに関して、住民説明会での質問票に質問が書かれたようで、「住民説明会における質問票への回答について」の「財政調整制度」には、次のようなQ&Aがあります。
特別区は、協定書に書かれてあるとおりに設置されるのですから、協定書に書かれていない「大阪府の特別会計」をさもあるかのように説明してはならないはずです。しかも、説明パンフレットp.19は
ですが、第13回大阪府・大阪市特別区設置協議会 資料1のp.7は
で、2つが同じとは到底言えません。説明パンフレットp.19の図では、市民が納めた税金は、下へ向かう左の赤い矢印は直接特別区民に、右の赤い矢印は大阪府の特別会計を経由してすべて特別区民に流れるようになっていますが、協議会資料p.7では、自主財源(左へ向かう紫色の矢印)以外はどこでどう削られるか曖昧で、上へ向かう2本の紫色の矢印の合計が、下へ向かう黒色の矢印(交付)になる保証がありません。説明パンフレットp.19の特別区の財源(イメージ)の図は、何の根拠もない図であると言わざるを得ません。
(最終更新:2019年11月2日)